植物性タンニンなめしのヌメ革・タンロー革をはじめ、豚スエード・ドラムダイ・ミンクル・オイルヌメ・牛革平紐・丸紐など、ビギナーからプロまでの皮革素材を中心にクラフト材料全般を取扱っています。
取扱い商品 > 革が革になるまで

皮が革になるまで...  - Process of Tunning -
まずはじめに、10cube Leathermart事業部のある(株)中村千之助商店も以前はタンニン鞣し(なめし)の工場を運営しておりました。私も水戻し(原皮に水分を与えて、付着している不純物を取り除いたりする革作りの初期工程)から鞣しなど色々な作業を経験してきましたので、その経験をもとに説明します。

1.原皮のお話

まず原料となる素材はもちろん皮です。原料皮→原皮と呼ばれます。 日本の牛、アメリカの牛、オーストラリア、カナダ、フランス、イタリア、インド、バングラデッシュ、パキスタンなどなど人間が牛の肉を食べれば牛皮が、羊を食べれば羊皮、山羊なら山羊皮と地域(気候)、宗教など色々な要因で世界中から原皮は生産されます。 ですから世界中の人がベジタリアンになったら私らの仕事は無くなってしまうかも(笑 その中でも一般的なのは牛ですね。

右の画像は、日本の原皮です。白黒なので乳牛のホルスタイン種。 周りについている白い粉は塩です。腐敗を防ぐために沢山の塩を振って、畳まれて工場に到着します。

この写真はトラックで取りに行ってパレットにおろした状態です。こちらは北米の原皮です。

パレットに畳まれて毛の生えている吟面が中になっています。 そうした方が吟面に影響が少なく良いコンデッションで日本に到着します。 綺麗に畳まれている原皮は品質が良い原皮、つまり良い生地の場合が多いです。

全ての商品、製品には人格が現れますね。

革の販売をしていると客様から「一頭分下さい。」なんて言われる事があります。 通常販売しているサイズは半頭分(半裁)が多いです。 もちろん一頭分で販売できる革もありますが、カーシート用、家具用、太鼓の革などを除いては小さい動物の革は一頭分、成牛は半裁です。 成牛(大きく育った大人の牛)の場合は一頭で5平方メートルぐらいなりますから、畳み2畳分以上になり、かなり大きいサイズです。そこで、通常は背中で半分に切って半裁と呼ばれるサイズにします。右側と左側に分けます。この作業はこれから出てくる水戻しなどの工程の後にされることが多いです。

水戻しの話の前に 原皮にもフレッシングされているフレッシュドハイドとされていない原皮があります。 フレッシングとは皮の裏側(肉側)の脂肪など余分な物を取り除く事です。 フレッシングされていない原皮は水戻しや石灰浸けの後にフレッシングします。
2. 水戻し(水づけ)

原皮が入荷した状態は、表面(毛の生えている面)にゴミや虫や糞なども付いていますので、これを取り除かなくてはいけません。 ましてや、遠く船に乗ってコンテナで運ばれてくる原皮は乾燥したり、防腐剤や塩が付いていますのでなおさら綺麗にしなければなりません。 ここで難しいのは、太鼓に入れて水温が上がるとバクテリアが増えてしまい、皮の表面にダメージが出ますので水温とPh(ペーハー)の管理が重要です。夏場は特に気をつかいます。また乾燥しすぎた皮は水分が浸透しにくいので、浸透する促進剤などを使う事もあります。
3. フレッシング

水戻しの後はフレッシングをして余分な脂肪などを取り除きます。 この後の作業の石灰、脱毛を行なう際に必要の無い脂肪などがあると、薬品の効果が均一にならないからです。その後、ドラム(太鼓)で洗ってから、背割りをして皮を半分にします。 背中で割るので、右側と左側に分かれます。 家具用や自動車用など大きな面積が必要な場合や小さい動物(仔牛、ゴード、シープなど)を鞣す時は半分にしません。
4. 脱毛、石灰漬け

石灰に浸けて、皮を膨らませ、毛根を抜けやすくする。 このときに硫化、水硫化を使い強アルカリにすると毛が溶け出すが、あまり急激にアルカリに持っていくと膨潤が早くなって毛先だけが溶けてしまい、毛根が残ったりしてしまう。 結構これが難しかった!

強アルカリだから皮も傷みやすく、あまりアクションを加えると後で染めムラが出たり・・。 これが脱毛石灰の後の皮です。ゴミみたいにグレーな物が毛が溶けたり抜けたもの。

右の画像は、水洗いの前に毛根のチェックをした時の貴重な画像です。
この辺の作業は通常の太鼓ではなくパドル(私はハスペルって呼んでたけど)を使います。 通常太鼓というのが上の画像で、右側の画像は半分上が開いてる状態の画像です。
5. 分割(生漉き)

脱毛石灰の後に分割します。 分割は生漉き(なまずき)とも言います。 つまりなめす前の生皮(なまかわ)の状態で、ある程度の厚みに漉きをかける事です。

この機械で作業するのですが、生皮の濡れた状態で漉きをかけるので、滑ってしまうし、重いし、ペンチで反対側から引っ張りだすので非常に難しく、重い作業です。「分割(生漉き)」の跡に「あかだし」と言う作業がありますが、特殊な革の場合にします。

特殊な革と言ってもレザークラフトには欠かせない牛タンロー、牛純白、などを作る時です。
タンロー(タンニン鞣し革のロウケツ染め用の意)は染色もしておらず、下地の状態で販売します。

つまり、素肌のまま、お化粧無し!!ファンデーションも使わず、まさにスッピン状態!!なのでシミ、傷、毛根などが全て見えてしまいます。このような革を作るときには「あか出し」をします。

皮の表面をヘラのような物で擦って、残っている不純物を押し出すのです。 毛の生えている方向を見ながら作業しないと逆効果になるので気を使います。

その後、「再石灰づけ」をします。 「脱毛石灰」は毛を取り除く作業が目的で、「再石灰づけ」は繊維をほぐす目的で行います。 あまり長時間「再石灰」すると繊維がほぐれ過ぎて、「吟浮き」などになりスカスカな感じになってしまいます。
6. 脱灰から鞣し(なめし)

再石灰の後は「脱灰、ベーチング」→「ピックル」→「鞣し」の順です。 石灰に漬かった皮は、アルカリの状態なのでかなり膨らんでいます。 脱灰する事によって、元の状態にします。 またベーチングは皮の表面に柔軟性を持たせ、毛根や不純物を再度取り除く役目をします。この2つは続けてドラムの中で行なっていました。そして「ピックル」でPh調整をして「鞣し」をします。
つまり、この「ピックル」から先に鞣しが行なわれると「皮」が「革」になる訳です。 漢字は本当に良く出来ていると思います。「鞣し」も「革」に「柔」がくっ付いて「鞣し」になる訳です。

実験した事は無いですが、きっとこの「ピックル」で作業を止めてしまうと皮は固くなってしまうでしょう。 昔、この先の「鞣し」が上手くいかなくて、カチカチの革になってしまった経験があるのでそんな感じがします。 以前、(株)中村千之助商店ではピット(渋槽)の鞣しをしていました。画像のプールのような槽にはミモザやケブラチョなどのタンニンが溶解されています。 その中に皮が入ってます。

渋鞣しでは酸性の状態で鞣しますが、急に濃い濃度の渋に浸けてしまうと皮の吟面と床面に急速な鞣しが進み、中まで渋が通らなくなってしまいます。 そこで、徐々に渋の濃度を上げていく方法をとります。 この槽の中の皮を一枚一枚、次の濃度の槽に移動させていました。 水分の含んだ皮を移動するのはかなりの重労働でした。
鞣しをしている場所はほとんど外に近い状態なので、冬は手が痛くなるほど寒く、夏は汗だくの作業です。

今でも取引先の工場を訪れると、「本当にお疲れ様です。」と言いたくなってしまいます。
to be continue ...